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方言・共通語

今日フィンランド全体をさすことばとして用いられる 「スオミ」 は,本来,西フィンランドのハメ地方,東フィンランドのサボ地方,南東部のカレリア地方と区別して,今日のフィンランドの南西の端の地域,すなわち,フィンランドの古都トゥルクを中心とする地方だけを指す名前であった。この地域が今日 Varsinais-Suomi,すなわち 「本来のスオミ」 と呼ばれているは,その名残である。フィンランド南西部のごく狭い地域の名称が,フィンランド全域をさすことばとして用いられるようになったのは,スウェーデンとの関わりの深かったフィンランドの政治的,宗教的な中心が,長期にわたり 「スオミ地方」 の中心トゥルクにおかれていたという歴史的事情のためである。

フィンランド語の文語は,もともと,教会で聖職者たちによって使われていた書きことばに起源をもち,その歴史的経緯から,トゥルク周辺地域で話される南西方言 (西フィンランド諸方言に属する) にもとづいて発達した。しかし,19世紀前半の 「方言間抗争」 と呼ばれる言語改革の嵐を経て,東フィンランド諸方言の要素を大きく取り入れて変貌を遂げた結果,今日 「フィンランド共通語」 (yleiskieli) と呼ばれる標準語は,とくにどれか特定の方言に基づいているということがむずかしくなっている。

また,最近は,マスコミなどを通して,スウェーデン語・英語などからの借用語が非常に多い首都ヘルシンキの話しことばが,しだいに全国に浸透しつつある。

更新日 2005/10/30