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2. 文語の歴史

2. 古フィンランド語[1540年代~1810年代]

ほぼ3世紀にわたる 「古フィンランド語」 時代のフィンランド語の書きことばは 「古期文語」 (vanha kirjasuomi) と総称される。大部分が聖書などのキリスト教関係の文献のフィンランド語訳であるが,スウェーデン語の法律のフィンランド語訳も行なわれている。

16世紀

トゥルクの主教を勤めたアグリコラ (Mikael Agricola,1510(?) – 1557) が著した 『ABCの本』 (Abckiria; 1543 年にストックホルムで印刷) は,印刷されたフィンランド語のテクストで現存するもっとも古い文献として有名である。アグリコラの翻訳でもっとも大部なものは,『祈祷文集』(Rucouskirja Bibliasta, 1544; 875 ページ)と『新約聖書』(Se Wsi Testamenti, 1548; 718 ページ) の2つである。アグリコラの著作で印刷されたものは合わせて 2400 ページに及ぶ。

「フィンランド語の書きことばの父」 と呼ばれるように,当時としては並外れたフィンランド語の文才の持ち主であったアグリコラは,一連の翻訳によって,事実上フィンランド語の文語の基礎をほとんどひとりで作ったといっても過言ではない。その際基盤となったのは,当時,主教区の置かれていたトゥルクを中心とする地域の方言 (南西方言; 「スオミ語」) である。アグリコラの著作で使われている語彙約8500語は,レンルートの『カレワラ』(1835, 1849) の語彙数約7800語よりも多く,その6割が今日でも使用されていると言われている。

アグリコラが基礎を築いた文語が南西方言に依存したものであったことにより,その後のフィンランド語文語の文法形態の枠組みが決まったといえる。他方,19世紀前半のいわゆる 「方言間抗争」の時代に,『カレワラ』などを通じて東フィンランドの語彙が大量に導入されると,語彙の面では,東の方言の比重が大きくなり,やがて東西方言を折衷した形でフィンランド語標準語が成立することになる。

17世紀

1642聖書のフィンランド語訳が完成
旧約聖書のフィンランド語訳が完成し,最初のフィンランド語版聖書 (『聖書,すなわち聖なる本の全文のフィンランド語訳』 Biblia, se on: Coco Pyhä Ramattu Suomexi) が出版されたのは,1642年のことである。翻訳は,ペトレウス (Eskil Petraeus) が中心となって行なわれた。
この聖書訳は,1776 年に改訂を受けるが,その後,20世紀の初めに新しい翻訳 (旧約 1933,新約 1913; 教会会議による認定は 1938, 1933)が行われるまで,フィンランド語聖書として用いられ続けられ,フィンランド語の標準化に大きな役割を果たす。現行の聖書は 1992 年の新訳である。

18世紀

1745ユスレニウス (Daniel Juslenius) による最初の本格的な辞書 (Suomen Sana-Lugun Coetus)
1758/1776リセリウス (Antti Lizelius) による聖書の大改訂
1776リセリウスによるフィンランド語の最初の新聞 (Suomenkieliset Tieto-Sanomat) の発行
更新日 2009/07/23