フィンランド語の名詞の格

名詞が,動詞との関係によって,様々な語尾をとって形を形を変えることを「名詞の活用」あるいは「名詞の格変化」と呼び,そのような活用形の1つ1つを「格」と呼んでいる。たとえば,名詞 talo 「家」は次のように格変化する。

単数複数
主格 (nominative)talotalo-t「家(が)」
属格 (genitive)talo-ntalo-j-en「家の」
分格 (partitive)talo-atalo-j-a「家(を)」
対格 (accusative)talo-ntalo-t「家を」
様格 (essive)talo-natalo-i-na「家として」
変格 (translative)talo-ksitalo-i-ksi「家に(なる)」
内格 (inessive)talo-ssatalo-i-ssa「家の中で」
出格 (elative)talo-statalo-i-sta「家の中から」
入格 (illative)talo-ontalo-i-hin「家の中へ」
接格 (adessive)talo-llatalo-i-lla「家で」
奪格 (ablative)talo-ltatalo-i-lta「家から」
向格 (allative)talo-lletalo-i-lle「家へ」
欠格 (abessive)talo-ttatalo-i-tta「家なしで」
共格 (comitative)talo-i-ne「家とともに」
具格 (instructive)talo-i-n「家によって」

14の格のうち,主格・属格・分格・対格の4つは,主として主語または目的語を表す場合に用いられる形で,文法格と呼ばれる。内格・出格・入格・接格・奪格・向格の6つは,主として場所関係を表す形で,場所格と呼ばれる。

場所格は,「ものの内部(~の中)」または「ものの表面・近傍(~の上・~に接して)」のどちらを指し示すかによって2つの系列に分かれ,それぞれの系列で「ものの置かれている場所」「運動の起点」「運動の到達点」のどれを指し示すかの区別がある。

フィンランド語の場所格の体系 (例: järvi 「湖」)
位置格起点格目標格
内部格内格出格入格
järve-ssäjärve-stäjärve-en
《湖水の中で》《湖水の中から》《湖水の中へ》
外部格接格奪格向格
järve-lläjärve-ltäjärve-lle
《湖面(湖畔)で》《湖面(湖畔)から》《湖面(湖畔)へ》
(1)a.Sinäpane-tomena-npussi-in.
あなたが置くリンゴを袋の中へ
「あなたはリンゴを袋に入れる」
b.Omenaonnytpussi-ssa.
リンゴがある袋の中に
「リンゴは今,袋の中にある」
c.Hänotta-aomena-npussi-sta.
彼女は取るリンゴを袋の中から
「彼女はリンゴを袋から取り出す」
(2)a.Minäpane-nkirja-npöydä-lle.
私が置く本を机の上へ
「私が本を机の上に置く」
b.Kirjaonnytpöydä-llä.
本がある机の上に
「本は今,机の上にある」
c.Sinäota-tkirja-npöydä-ltä.
あなたが取る本を机の上から
「あなたが本を机から(手に)取る」
更新日:2002/10/27 — Copyright © 2002 by Kazuto Matsumura