ムーミン谷の話を聞いたことがありますか? 11月に初雪が降ると,みんな冬眠に入ります。でも,ムーミンたちはその前に,モミの針のような葉をお腹いっぱい食べます。まるまる3か月眠るわけだから,お腹をいっぱいにしなければならないのです。冬の間,ムーミンの家は,ふわっとした丸い小高い雪の山のように見えます。その中で,ムーミンパパ,ムーミンママ,ムーミントロール,ちびのミーが眠っています。ムーミン谷が雪に埋もれているちょうどそのころ,あたりに,そろそろ春の気配が感じられるようになります。
ムーミン谷もようやく春になりました。雪がとけて,草花が成長を始めました。家の中でベッドに寝そべっていたムーミントロールが,そっと目を覚ましました。目を開き,上体を起こし,気持ちよさそうに伸びをします。そして,窓のところに走って行って,外を見ました。
「お,もう起きてたんだ」
「きみが動き回って音を立てるから,誰だって目が覚めるさ。人を起こして回るのがそんなに楽しいかい」
「もちろん」
「ちょうど,スイカの中に住んでいる夢の最中だったのに」
「冬が終わり春が来た。生きているって楽しいなあ!」
「寝ているのも楽しいさ」
ムーミンママも起きてきて仲間に加わりました。
「おかあさん!」
「おはよう,ムーミントロール!」
ムーミンママは1階に,朝食の準備に降りて行きました。長い冬眠のあとだから,みんなお腹がぺこぺこです。
そのとき,ムーミントロールは,遠くから聞こえてくるハーモニカの音が聞こえました。
「スナフキンが帰ってきている!」
スナフキンはムーミントロールの親友です。毎年冬が近づくと,スナフキンはムーミン谷を去ってどこかに旅に出て,春になるとまた戻ってくるのです。ムーミントロールは,最上階へ駆け上がり,縄ばしごを伝って,一生懸命降りてきます。ちびのミーは,玄関のドアから素早く外へ出てきました。
「階段を下りた方が早いのに」
「縄ばしごのほうがスリルがあって楽しいよ」
ムーミントロールが川の方へ走って行くと
スナフキンが,橋の欄干に座って,ハーモニカを吹いていました。
「スナフキン!」
「やあ,ムーミントロール!」
友だちどうし,再会を喜びます。スニフを起こしに行こうということになりました。
スニフの家まで来ると,大きないびきが聞こえてきました。
「いびきが聞こえる。もう一度合図を送ってみよう」
スナフキンは,指を口に入れると,思い切り指笛を吹きました。いびきが止み,しばらくするとドアが開いて,その隙間から,スニフの寝ぼけた顔が出てきました。
「スニフ,外に出ておいでよ。スナフキンがいるよ」
「ぼくはまだ寝ていたいんだ!」
「何か面白いことをしようと相談していたんだ」
それを聞いて,好奇心が人一倍強いスニフはすっかり目が覚めました。
3人は,山の頂上へ向かう道を歩きはじめます。途中で,川を飛び石伝いにこっちの岸に渡って来ようとしているヘムレンさんに出会いました。ヘムレンさんは,そのうち訪ねてくると約束してくれました。
山の頂上に登り着いた3人は,立ち止まって,綺麗な景色を眺めることにしました。ムーミン谷が一望のもと見渡せます。スニフは,ムーミンの家を探しました。
「ムーミンの家の煙突から煙が上っている。ムーミンママがきっとごちそうを作ってくれているんだね」
お腹がすいているスニフは,ムーミンの家に行ってご飯が食べたくなりました。
ちょうどそのとき,ムーミントロールは,黒い帽子が岩のところに落ちているのに気がつきました。スニフは,空腹をすっかり忘れてその帽子をつかみました。
「うーん。大きくて黒い帽子だね。誰の帽子だろう?」
ムーミントロールは,帽子を手にとって,調べます。
「おとうさんが日曜日にかぶる帽子にしたらよさそうだ」