フィンランド語について
Reinhold von Becker 1820

他の民族同様,フィンランド人の話すことばは一様ではない。サヴォ人とカレリア人の話しかたは違うし,ハメ人のことばも違う。他の人々のことばもそうである。独特の言い回しを使わない教区はまずない。だれでも,自分の生まれ育った土地のことばがいちばん優れていると思っている。しかし,各地方のことばにふれ,そのすべてを公平に調べた者は,どこのことばがいちばんきれいであるかをよく知っていて,指摘できる。以前からよく知られているように,よその国のことばが話され,かつて外国から移り住んだ人々が住む海岸地域のフィンランド語と,異なった言語を話す人々との交流がそれほど多くなかった住民の住むフィンランドの中央部や北部地方のフィンランド語とを比べると,前者はなまりが多いし,くずれている。後者の地域で話されるフィンランド語の方がより完全であること [...] が明らかである。これに対して,ハミナの近辺から海岸沿いにポリの町の北側までつづく地域のフィンランド語は,貧弱である。[...]

フィンランド語の不幸は,最初の本が,この海岸地域の貧弱なことばで書かれたことである。しかも,そのことばにスウェーデン語とラテン語の不要な文字が無理矢理押し込まれたため,本来わかりやすいことばがそうではなくなってしまった。[...] その後,多くの人々が,これらの本に倣って,同じようなフィンランド語を書いたし,書くときばかりか,話すときまで,わかりやすいフィンランド語の話者たちとは異なることばを使う習慣を身につけてしまった。さらに,本のことばがもっともきれいなフィンランド語だと信じるようにまでなった。誰でも知っているように,ことばは本から生まれるわけではない。ことばの方が先にあって,それが書かれるのだ。だから,書きことばは話しことばに合わせるべきであって,その逆ではない。スウェーデン語を知らないフィンランド人は,スウェーデン語から入り込んだよけいな文字をちゃんと読めないから,書くときにも読むときもに苦労し,当惑させられる。例を1つあげれば,teitä (あなたがたを), tulee ([彼・彼女が]来る) と書くべきなのに,deitä, dulee のように d を使って書くフィンランド人をしばしば見かける。フィンランド語をゆがめるこういった表記を,フィンランド語の書きことばから一掃しようと私は考えてきた。自分のフィンランド語についての知識をより完全なものにするために,私は,懐と時間が許す限り,フィンランド各地に出かけ,それぞれの地方の言い回しを調べ,一生懸命研究して,今,この週刊新聞で使っているようなフィンランド語を書くようになった。[...] 私はまた,どんなことでも,可能な限り,フィンランド人が話すときに使う言い回しで表現することで,自分の書く文章が,よくお偉いさんたちが書いているような,スウェーデン語からの逐語訳としか思えない文章にはならないように努めた。[...]

(松村一登・訳)

更新日:2005/11/02