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少数言語 絶滅の危機使われている言葉の8割までが英語といわれるインターネットの世界で、少数言語を守ろうという動きが広がっている。絶滅の恐れがある世界の言語をデータベース化する学術研究が進むほか、少数民族の伝統や文化を含めて言語を大切にしていこうと支援するグループも出てきた。
「世界で話されている言語は大小合わせて6000から7000といわれます。そのうちの半分ぐらいは、一世代ないしは二世代のうちに話し手がいなくなるだろうと考える人がいます」。こういうメールをくれたのは、東京大学大学院人文社会系研究科教授の松村一登さん(47)。松村さんの開くホームページの名はずばり「危機言語」だ。 レッドブックと書かれたページを開くと、アフガニスタンの「モグホリ語」の子供の話し手はゼロ、若者は60人、全体でも200人以下という調査結果がデータベース化されている。 松村さんはモスクワの言語学者と協力して、ロシアの少数言語の記録をつくっている。また、バルト地域などで文字を持たない言語を音声で保存する活動を進めている。 「トキやパンダを心配するのと同じように、言語の中にも消滅しそうなものがたくさんあるということを知ってほしい」と松村さんは訴える。 一方、言語を守る手段として期待をかけるのが電子メディアだ。「印刷物だったら絶対に残らない言語が、インターネットでは文字化されて、みんなで共有できるようになった。お互いに遠く離れて住んでいる少数言語の使い手が、自分たちの言語で意思を交わすこともできる」 日本語、英語、フィンランド語、エストニア語、マリ語の5か国語でメールをやりとりする松村さんは、インターネットの力を実感している。
言語を含めタイ北部の少数民族を支援する運動を続け、ホームページで発信しているのは、日本の民間活動団体(NGO)「さくらプロジェクト・タイ」だ。 現地の村に住むジャーナリストの三輪隆さん(45)は「少数言語を継承するため、子供たちを少数民族専門の学校に通わせています。言語や文化を保存するため、民族の歌や楽器、踊りの練習も大切にしています」と活動内容をメールで知らせてくれた。 「民族のアイデンティティーにとって、言語は極めて重要」という三輪さんは少数民族の生活をビデオにおさめる活動も続けている。 タイ北部の山岳民族は、社会福祉局の調べによると、アカ族が4万9903人、リス族が3万1463人、12部族のうち、最も少ないムラブリ族は57人だ。森林の枯渇、定住化を進める政策、若者の都市への流出という状況の中、独自の言葉と文化の存続が脅かされている。 三輪さんは言う。「ムラブリ族の語尾を長く響かせる、子供に向かってやさしく子守歌を歌うような話し方は、これまで聞いた世界の言語の中でも屈指の美しい響きを持っています。言語の美しさは同時に彼らの文化が持つやさしさを象徴しています」。そして「やがて、この美しい言語、やさしい民族が地上から失われるのかと思うと、何としても守っていきたいと思わずにいられません」とも……。 民族の言葉を自ら発信する動きも出てきた。ニューヨーク州北部に住むアメリカ先住民のオナイダ族は、ホームページを開き、アルファベットで表記したオナイダ語も交えて語り継がれた民族の歴史を伝える。50年ほど前には滅びかかった言葉を、テレビ=ワタスルテといった新語もつくり、よみがえらせた。 日本の中でも、アイヌ語を守ろうという動きがネットの世界で強まってきた。札幌テレビ放送の「アイヌ語ラジオ講座」のページは、1回15分のラジオ番組の中身をそのまま聞ける。教材は豊かな口承文芸。「ある日パナンペは山へ行って山の斜面に」はアイヌ語で「シネアントタ パナンペ キムタ オマンワ フルコトッタ」となる。 三輪さんが強調するように、ある言語を聞き、話している時はその民族の気質が乗り移る感じがする。 地球上に点在する少数言語が、その民族の豊かな世界観をも背負いながら、ネット社会の中で、遠くの人々に伝わっていくか。言葉を守る最前線として、サイバー空間が試されている。
(西田 裕美)
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